恐怖のカレー一箱に1枚封入されている、恐怖のおみくじカード。
恐のおみくじの噂に迫ります。
恐のおみくじの噂
第弐夜
ある夏の日の夕方、心霊マニアOのもとに、一通の手紙が届いた。
差出人の名前はなく、飾り気のない茶封筒に走り書きで書かれた宛名はOのものではなかった。
彼は「この暑さで参った配達屋の間違いだろう」と、さほど気にも止めることなく、翌日その手紙をポストに投函し出社した。
しかし、数日後、再び同じ手紙がOのもとに届いた。
宛名はやはり彼のものではなく、差出人も不明だった。
差出人に戻すにも戻せず、どういう訳か自分宛の荷物と勘違いしているのだろうか…。少し躊躇したものの、このままでは埒があかないと、彼はその手紙の中身を確かめることにした。
幸いにも、手紙の封は既に糊が剥がれかけており、すぐにでも開く状態になっていた。
中身を確認したらすぐキレイに封をとじて、心当たりがあればこの手紙を本当の受取り主に届けてあげればいい。もし中の手紙に心当たりがなくても、自分と関係ないということが分かれば、奇妙な手紙に悩まされることもないし、おまけにポストに戻すときに自信をもって文句の一つもつけることができる。
そんなことを考えながら、Oは丁寧に手紙の封を開けた。
中身は2つ折りの、半紙のような薄い紙が、
たった1枚。
そっと中の紙を取り出し広げてみると、中央に大きく墨文字で「×」とだけ書かれていた。
当然のことながら、心当たりはなく、Oはますます深まる不可解な手紙の謎に行き詰まることとなってしまった。
イタズラであれば、このまま捨ててしまえばいい。
だけど、もしこれがイタズラではなく、何かのメッセージだとしたら…?
ただの直感ではあったが、彼はこの不思議な手紙をこの世の者からのメッセージではないと感じていた。
その夜、Oは彼の子供たちにその手紙を見せると、お父さん、運がいいね!と意外な答えが返ってきた。
どうして運がいいんだい?×の書かれた手紙に追い回されて、運が悪いならともかく運がいいとはどういうこと?彼はまったくもって分からないと子供たちにその理由を尋ねた。
おみくじの凶の字の檻がないからだよ。子供は自慢げに答えた。凶の字はいつも檻の中で窮屈にしているけど、この×は檻がないからいつでも自由だね!
その答えを聞いてしばらく考えたOは、よし分かった、これからは凶の字が自由になれるようにしよう。
Oは×の字が書かれた手紙の裏に、「恐」の字を書いてもとの封筒に手紙を戻すことにした。手紙の封は閉じず、小さく〆の文字だけを印した。
この手紙は開けられるのを、自由になるのをずっと待っていたのかもしれない。
おみくじは運勢を占うものではなく、行動を決めるもの。
翌日、 彼はポストに手紙を投函した。
手紙は二度と、Oの元に戻ってくることはなかった。
(という噂…。)
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