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恐怖のカレー

漆黒の艶の中浮かび上がる一つの目。滲む鮮血の文字が恐怖感を一層際立たせます。

恐怖のカレーのパッケージに込められた、あるおまじないとは。

…恐怖のおまじないの噂から、その謎を推理してみてください。

恐怖のおまじないの噂

第七夜

心霊マニアOの生み出した恐怖のカレーは血潮が滲むようにじわりじわりと世に広まっていた。

 

「恐怖のカレー」の響きと奇妙な存在感は、耳にする人の興味を集めるのに申し分なく、興味本位で恐る恐る手に取る人々の恐怖を、笑顔に変えていく。

 

しかし、Oの個人の力や関西で地道に恐怖のカレーを広めてくれるQの熱心な活動だけでは、この輪の広がりに限界を感じているのも事実であった。

 

カレーを作り続けるある夜、Oはあの東尋坊に住むYが”ある男がモノやコトに願掛けする特別な方法を知っている”と言っていたのを、ふと思い出した。

深夜と言ってもいい時頃ではあったが、彼は躊躇もせずすぐにYに電話をしてみた。

しかしYは相変わらずの不在である。

 

…さて、どうしたものか。

 

実際のところ、あてにならないYに聞かずともOはその男の連絡先を知っていた。

 

直接聞くこともできるのに、Oは彼へ連絡することを避けていた。

 

深夜だから遠慮している、という訳ではない。その男はむしろOと同じように日中の仕事が忙しく、連絡が取れるのはまさに今の時間帯であり、好都合だ。

 

かといって、仲が悪い間柄という訳ではない。

 

Oと同い年で誕生月も同じ彼もまた、Oと同じように大切にする理念があり、同じように些細なイザコザで揉めるこの世の中を自分たちの力で良くしたいとと考えていた。

 

…多くの共通点があり同志と呼んでも相違ないふたりであったが、知り合って間もない頃から、お互いの共通点が見つかるほどに相手に負けたくないと強く思っていた。

彼らは互いに互いの存在を強く意識し、良好な友人であると同時にライバルでもあるのだ。

 

些細な話であれば、どうとでも談笑をするが、Oはこの恐怖のカレーに関してはことさらに自分の力で完成させていきたいという思いが強かった。

 

しかし………

 

こうなれば、仕方がない。どうやら彼に頼るしかなさそうだ…!

Oは意を決し、その男、K・Kを尋ねることにした。

 

K・Kは一山超えた先に住んでいた。

Oの自宅が海にほど近いことを考えると、それは一つ相違点と言えるかもしれない。

 

Oから見てK・Kは、兎角いつもOの一歩先を行く存在であった。

 

Oの集めているコレクションをK・Kはいつも一つ多く集めていた。Oが旅行の写真を見せれば、K・Kはちょうどその数ヶ月前に同じ場所でとった記念写真を持っている。Oがおみくじで中吉をひけば、K・Kは大吉。

それは何も勝ち負けのつくものでもなければ善し悪しのあるものでもないが、それでも一度は先んじたいと思うOの心持ちを理解するには十分な出来事である。

 

深夜の山道は明かりもまばら、Oの心境を映し出すような重苦しい空気が流れていた。

 

 

 

……K・KはまるでOの到着を待っていたかのように、Oが到着すると同時に自宅の門の前に現れた。

 

深夜の思いがけない来客にK・Kは一瞬、驚いた表情を見せたが、すぐにいつも通りといった素振りを見せた。

 

「これは珍しい客人だ。こんな深夜にわざわざここまで尋ねてくるとは…どうも訳ありだな!」

K・Kは何やら楽しげに言った。

 

ライバルのOが自分を頼ってやってきたとあっては、倉庫にしまってある真っ赤なワインでも用意して、祝杯でもあげようかといった様子である。

 

そしてどういう訳か、鼻歌でも歌いかねないK・Kの様子を見ているうちに、思い悩んでいたOの心も次第に何やら楽しい気分になってきた。

やはり、悔しいが今回ばかりは彼に頼るほかない。

 

OはK・Kに尋ねた。

「実は、どうしても知りたいことがある」

 

Oは単刀直入に言った。カレーに願掛けしたい、と。

 

最初一体なんのことかと話半分に聞いていたK・Kであったが、Oがこれまでの経緯を力強く語っていくうちに、いつしかK・Kも真剣な面持ちで腕を組み前のめりに頭を傾けて聞き入っていた。

 

———なるほど、要するに仕上げの『御呪い(おまじない)』ってやつだな。

確かに、その方法は知っている。

 

K・Kは少し困ったように話を続ける。

 

これはそれ程簡単に進む話じゃないぞ。それなりの準備が必要だし、途中でこの願掛けを取り消したいと思っても変えることはできない。

それに綿密に計画を立てていかないと、間違った呪いがかかってしまう。失敗すれば、今まで積み立ててきた実績にも影響が出てしまうかもしれない。

リスクは大きい。

しかし、効力は折り紙付きだ……。

 

「それでも、試してみたいと思うか?」

K・Kの言葉に迷うことなく、Oは答えた。

「もちろん。」「リスクは始めから覚悟してる。そうじゃなかったら、K・K、お前にこうやって頼ることもなく一人で今もぼんやり考え中さ」

 

それを聞いて、K・Kはにやりと笑った。

 

…分かった。というより、俺も協力したくてウズウズしているよ。とっておきの『御呪い(おまじない)』、教えてやろう!

 

さぁ、一体どんな願いをかける———。

 

その晩、K・K邸には奇妙な明かりが灯り、周囲の山道にまでOの用意したカレーの香りがいつまでも漂っていた。

(…という噂。)

 

 

 

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