恐怖のカレーを開発した心霊マニアのO。
恐怖のカレーで人々をもっと惹き付けるにはどうしたらいいか。
悩むOは友人に電話をかけますが…
2話構成の噂話、前半のエピソードです。
連絡のとれないの男の噂
第四夜
心霊マニアのOは考えていた。
世の中にあふれている些細なイザコザをなくし、世界を平和にしたいという想いから開発した"恐怖のカレー"。
どうすればこのカレーをもっと多くの人に知ってもらえるだろう。
家族は喜んで"恐怖のカレー"を食べてくれたし、以前よりもオカルト現象に対しての理解も深めてくれた。
夜な夜な試行錯誤を重ねて作り上げた、味にはこだわりがある。しかし、単に美味しいというだけでは、人の心を動かすには刺激が足りない…。
行き詰まったOは、ある休日、Yに連絡をとることにした。
Yは福井県三国市在住の男で、Oの友人の一人だ。
福井県の三国市と言えば、あの有名な心霊スポット・東尋坊だが、Yの自宅はその目と鼻の先にある。
Yなら、もっと幽霊のことを世間の人に理解してもらえるアイディアをもっているかもしれない…。
しかし東尋坊にある自宅は、いつ電話をしてもYは不在だった。
そしてその日も例に漏れず、Yは不在であった。
電話口で、彼の奥さんはYは東京に出張中だと言う。
いつもいないだなんて、Oはまるで自分は狐か狸に化かされているのではないかと思うことが度々ある。
こういった話はYが適任だと思ったが、連絡が取れないとあっては仕方がない。
Oは久々の休日ということもあり、一人散歩にでも出かけることにした。
夏には似つかわしくない曇り空の下、Oの気分もどんよりとしていた。カレーは順調にできているが、あと一つ、アイディアが浮かばない…。
「Oちゃん!」
自宅から数百メートル歩いたところで、Oは一人の男に声をかけられた。「久々だなぁ!」
声をかけたのは、Oの地元の後輩・Nだった。
「ああ、久しぶり!」久々というのもおかしな話だ。Nとはつい1ヶ月前には会っただろうとは思ったが、Nはざっくばらんな性格でそういう細かいことは気にしない男である。Oもそれ程気にせず、そう答えた。
昔馴染みのNは強面に似合わわない軽快な話口調で、Oに言った。「面白そうな話を聞いたよ。Oちゃん、カレーに凝ってるんだって?俺にも味見させてよ!」
どこからかOの噂を聞きつけた様子のNは興味津々という面持ちである。
そこでOは言った。
ただのカレーじゃない…"恐怖のカレー"だけど、それでも食べてみるかい?
恐怖のカレーだって?Nは一瞬眉間にシワをよせ、訝しむ様子をみせたものの、うん、どれほどの恐怖か試してみようじゃないかと決断し、さっそくOの自宅へ赴くことにした。
ところで、どうしてカレーを作っていると知ってたんだい?自宅に向かう道すがら、OはNに問いかけた。
Nは答えた。
どういう訳か、例の東尋坊に住んでいる男がいただろう。彼から留守電が入ってたんだ。Oが面白いカレーを作っているらしいから、自分は東京に出張中で行けないけど様子を見てきたらどうだ、と。
OはYの奥さんにはカレーの話をしていない。
Oはその場でYの自宅に電話をかけてみたが、いつもの通り、Yは不在だった。
どうしてYがカレーのことを知っていたのか、Oには確かめる手段はなかった。
(…という噂。)
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